2019/07/23

米国eHealthジャーナル試読版

Verily、大塚製薬など製薬大手4社と提携

疾病管理・患者モニタリング, デジタルセラピューティクス, 提携, Verily, Otsuka, ウェアラブル, 患者データ・疾病リスク分析

臨床研究改革を目指すProject Baselineの一環で

Alphabet傘下のVerily Life Sciencesは5月21日、臨床研究の変革を目的として、大塚製薬、Novartis、、Pfizer、Sanofiの製薬大手4社と戦略的提携契約を締結したと発表した。

製薬4社はVerilyの「Project Baseline」 に参画し、患者や医師の研究への参加、および臨床研究の迅速化と実施にともなう困難の解消を促し、医療施設の枠を超えたデジタル基盤の臨床研究プログラムの開発でVerilyと協力する。

Project Baselineは、健康に関する明確な「ベースライン」の確立と質の高いデータ・プラットフォームの構築により、疾患の発症やそのリスク因子についての理解を深めることを目指し、Verilyが2017年に開始した取り組み。

デジタル技術を活用し、より多くの患者や臨床医に研究に参加してもらうことで、包括的で質の高いデータ収集を目指している。

18歳以上の米国在住者であれば、誰でも被験者として Project Baselineに参加できる。Project Baselineのプラットフォームはこれまで、Verilyが開発したウェアラブルセンサー「Study Watch」や電子医療記録(EHR)、その他デジタル機器由来のリアルワールドエビデンス(RWE)収集を目指す臨床研究者に採用されてきた。

このプラットフォームは、被験者登録、被験者の組み入れ基準など試験の説明、自己報告ツールといった参加者対応エコシステムのほか、研究者のための研究上の意思決定支援ダッシュボードや分析ツールを備えている。

今回の合意の下、製薬大手4社は、患者のEHRやデジタル機器から得られる健康データの収集と管理を通じてRWEを生成する新たなアプローチを模索する。

4社はまた、VerilyのProject Baselineプラットフォームを採用し、心血管疾患、癌、精神疾患、皮膚科疾患、糖尿病といった分野での臨床研究を実施する計画だ。

Project Baselineで実施中の様々な臨床研究

Project Baselineでは、 患者や患者擁護団体と、医師、ヘルスシステムをつなげることで、臨床研究と臨床プラクティスの統合と、医療・ 研究への患者の積極的な関与を促すコネクテッドなエコシステムを構築している。Project Baselineは2019年2月には、女性の臨床研究への参加を促す取り組みでAmerican Heart Association(AHA)と提携した。Verilyは5月16日には、Project Baselineの一環として、米国の主要な6つのヘルスシステムとの提携による新イニチアチブ「Baseline Health System Consortium」 を発表。最初のパイロット・プログラムとして、既存の研究プログラムを分析するとともに、Project Baselineのプラットフォームを活用して、試験実施の容易化・迅速化、健康関連データ捕捉の効率化、より強固なエビデンス生成を目指す。

臨床試験の場を患者の自宅へ
新薬開発において臨床試験の実施は避けて通れないが、デジタルヘルスやテレメディシンなどの技術の進歩は、臨床試験の場が医療施設から患者の自宅へとシフトするのを促している。

Appleは、iPhoneおよびApple Watch向けのデジタル・ヘルスアプリを作成するための研究者向けオープンソース・フレームワーク「ResearchKit」を提供しており、喘息、乳癌、心血管疾患、糖尿病、産後うつ、パーキンソン病などのアプリが既に多数開発されている。

これらのアプリは、iPhoneやApple Watchに内蔵されている歩数計、心拍数センサー、加速度計、GPS、マイクなどを活用してデータを収集し、疾病をモニタリングしたり「スマート臨床試験」を実施するのを支援する。

Novartisは2017年8月に多発性硬化症(MS)患者を対象とするResearch Kit基盤の臨床試験開始を発表、2018年1月には、デジタル臨床試験の実施に向けResearch Kitの導入をさらに拡大する計画を明らかにしている。

従来の臨床試験モデルは、 臨床試験施設を中心に構成されている。試験開始にあたっては、製薬企業が必要な試験施設を選択し、各試験施設は、試験実施のための各種手続きを行い、被験者登録を行う。

被験者登録は難航することが多く、実際に試験施設の半数近くで目標数に達することができず、試験開始の遅延や、ときには試験中止の要因となることもある。

「臨床試験施設に依存しない臨床試験」を支援するプラットフォームとしては、eClinicalHealth開発のオンライン臨床試験プラットフォーム「Clinpal」や、Janssen Research & Developmentが提供する「iSTEP」、技術企業Qualcommのライフサイエンス子会社Qualcomm Lifeが提供する「2net Platform」がある。

また、ロサンゼルス拠点のScience 37が、テレメディシンとモバイルヘルス、そしてNORA(Network Oriented Research Assistant)と呼ばれるクラウド基盤モバイル・プラットフォームを活用して、皮膚科疾患、癌、精神疾患、神経疾患、糖尿病など、様々な疾病を対象にスマート臨床試験を実施している。

Science 37の臨床試験において被験者は、NORAを搭載し、臨床試験で必要とされるデータプランを備えたスマートフォンの提供を受ける。

同社によると、進行中の臨床試験の多くは自己投与型医薬品を対象としているが、訪問看護師派遣企業との提携により、看護師が患者の自宅を訪れ、医薬品の注射や点滴投与を行うことも可能だ。

また、特別な装置を要する検査は、被験者の近隣の病院やクリニックで実施されるという。NORAには、服薬リマインダーなど、被験者の服薬遵守を促す機能も搭載されている。

Science 37のアプローチは大手製薬企業から注目を受けており、これまでのベンチャー・キャピタル(VC)投資にはdRx Capital(NovartisとQualcommの合弁投資会社)、Sanofi Genzyme BioVentures、Amgen Venturesなどが参加している。

製薬企業による「スマート臨床試験」の取り組みの主な例

(了)


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