2023/02/28

米国eHealthジャーナル第83号

AIチャットボットのWoebot Health社、産後うつ病DTxのピボタル試験を実施

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メンタルヘルス疾患のリレーショナルエージェントWoebotを開発

カリフォルニア州サンフランシスコを拠点とする2017年創業のスタートアップ Woebot Labs, Inc. (以下、Woebot Health社) は1月23日、産後うつ病を適応として開発しているプログラム「WB001」の安全性と有効性を評価するピボタル臨床試験で、患者の組み入れを開始したことを発表した。多施設共同無作為化二重盲検対照試験として実施され、完了は24年1月を予定している。

WB001は、医師が処方するPDTx (Prescription Digital Therapeutics) 製品としての上市を目指しており、2021年5月には FDA から画期的医療機器指定*1 を受けていた。

 

新型コロナ禍で深刻化した 産後うつ病

産後うつ病は、分娩後の女性(産婦)が、産後3か月以内に発症する場合が多いメンタルヘルス障害である。気分の落ち込みや自責感、自己評価の低下、子供への無関心、そして最悪のケースでは子の虐待や希死念慮に至る可能性もある。

これまで、産婦の10人に1人以上、10数パーセントが発症すると言われてきたが、新型コロナ禍では同居する家族以外とコミュニケーションする機会が極端に減少し、育児環境要因/社会経済的な変化を受け、4人に1人以上、約3割にまで倍増するなど、国内外で増加傾向が確認・報告されている。

難しいことに、声を上げずに黙って苦しむ患者は多く、また、サポートを求めても必要なリソースにアクセスするのに苦労する場合が少なくなかった。

 

セルフ管理にAIチャットボットを開発するWoebot Health社

Woebot社はDTx製品の開発に特化しており、認知行動療法(CBT)や対人療法(IPT)のような臨床的に証明済みの療法に、患者がチャット画面から入力したテキスト情報の自然言語処理、機械学習による患者毎のパーソナライズ、患者にフィードバックする自然な文章作成、そしてWoebot社の最大の強みであるリレーショナルエージェントWoebotを組み合わせている。

出典:Woebot Health

マサチューセッツ工科大学の研究所 MITメディアラボ の Affective Computing 研究グループによれば、リレーショナルエージェントとは、ユーザとの長期に渡る社会的・感情的な関係を構築および維持するように設計されたコンピューティングによる人工物のことである。
これまでの研究で、有意義な関与やより良い転帰の可能性をサポートするために患者との絆を形成できることが示されている。
対話を通じてWoebotと患者の間に構築される関係性は、人間であるセラピストと患者との間で構築される絆に負けず劣らないこと、人間同士の関係性構築が2~6週間を要するのに対し、僅か3~5日と短期間で形成される。

百聞は一見に如かず。これまでに最もダウンロードされた人気ヘルスケアアプリの一つである、セルフケアアプリ「Woebot: Your Self-Care Expert」(Google Play / App Store) は、処方箋も不要で、無料で利用可能なので、試してみることをお勧めする。

一方、医師が処方する治療用アプリ「WB001」は、産後うつ病向けの心理教育レッスンに加え、認知行動療法(CBT)や対人心理療法(IPT)のスキルやツールを用い、患者のスマートフォンを介して 8 週間にわたって配信されるもの。
診察の順番待ちが長引いても、診察と診察の間の治療空白期間であっても、患者をサポートすることが可能となり、正に必要なタイミングで早期介入・早期治療することに重点に置いている。
従来からの療法や医療職としてのセラピストからの置き換えは目指しておらず、あくまで抗うつ薬や精神療法という通常治療の補助として、追加されるリソースと位置付けている。


出典:Woebot Health

今回の研究では、過去3か月以内に出産し、軽度から中等度の産後うつ病に罹患している22歳から45歳の女性を対象に、WB001群と対照群の2群に割り付け、8週間の治療の終了時に、心理検査であるハミルトンうつ病評価尺度「HAM-D6」を通じて、症状を軽減できたかどうかを評価する。

 

各社が開発を進めるチャットボット

リレーショナルエージェントは、改めて注目を集めるホットな領域になろうとしている。
チャット画面に入力したテキストに加え、患者(産婦)の発話音声や顔表情などをマルチモーダルな入力データを処理するモデルが次々と開発されることは、アカデミアの研究からも間違いないだろう。

Woebotも、ただの見た目が可愛らしい、見掛け倒しのロボットではない。Woebotのような人工物は、人間(セラピスト)には相談し難いような内容であっても、躊躇なく打ち明けられるようになる傾向が示唆されている。
標準療法に準じながら、産後うつ病も早期に診断および治療する新たなスペースを開拓するWoebot社の動きから、目が離せない。

 

脚注
*1 画期的医療機器指定
画期的医療機器指定 (BDD: Breakthrough Device Designation) は、生命の危険がある、または患者を不可逆的に衰弱させる疾患や症状を治療、または診断する新規医療機器の迅速な上市を支援するFDAのプログラムである。
市販前承認(PMA)申請、デノボ(de novo)申請、510(k)申請のいずれにも利用が可能で、優先審査が保証される。
指定を受けた医療機器は、他の審査待ち医療機器よりも優先的に審査を受けることができ、審査官の数も増員されるが、必ずしも審査期間が短縮されるわけではない。

※ ※ ※ ※ ※

[編集部メモ]
どのような疾患も正確な理解が治療への第一歩となるが、産後うつ病を患った産婦も、理解され難いという悩みを抱え、孤独を深めることが多いと言われている。
鈴ノ木ユウ氏による漫画「コウノドリ」は、産後うつ病の実態を忠実に、かつ分かり易く描写しており、一読をお勧めする。

コミックDAYSチャンネル
・『コウノドリ』マタニティブルー編 #1/3【公式】、6分47秒
 https://www.youtube.com/watch?v=eOAOEuPL4ic
・『コウノドリ』マタニティブルー編 #2/3【公式】、6分21秒
 https://www.youtube.com/watch?v=zMxKGC0IfCM
・『コウノドリ』マタニティブルー編 #3/3【公式】、6分32秒
 https://www.youtube.com/watch?v=tdjVamSz2Mk

(了)


本記事は以下の公式発表を翻訳要約し、適宜解説を加えたものである。


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