2022/12/27

米国eHealthジャーナル第79号

テレヘルスを利用して中絶薬の処方を求めるケースが急増

テレヘルス, フェムテック, 行政・規制ニュース, 産婦人科, ジャーナル第79号

連邦最高裁判所による、女性の人工中絶権を認めた判例破棄の影響

JAMA に11月1日付で掲載された研究「Requests for Self-managed Medication Abortion Provided Using Online Telemedicine in 30 US States Before and After the Dobbs v Jackson Women’s Health Organization Decision」によると、女性の人工中絶権を認めた1973年の判例について連邦最高裁判所がこれを破棄して以降、テレヘルスを利用して中絶薬の処方を求めるケースが急増した。

米国では連邦最高裁判所が6月24日に、妊娠15週以降の中絶を禁じるミシシッピ州法の合憲性を争った「ドブス対ジャクソン・ウィメンズ・ヘルス(Dobbs v. Jackson Women's Health Organization)」裁判(以下、ドブス裁判)において、1973年の「ロー対ウェイド(Roe v. Wade)」裁判における判決を覆し、「中絶する権利は憲法が定めるものではない」と結論付けたことを受け、各州政府は、それぞれ独自の州法で中絶の権利を保障もしくは禁止・規制することが可能となった。このため、一部の地域では性と生殖に関するケアへのアクセスが困難になっている。

出典:Shutterstock

研究班は今回、米国やその他の国の人々に経口中絶薬を郵送するサービスを提供する非営利団体のAid Accessに寄せられた、人口中絶薬の処方依頼傾向を調査した。なお、Aid Accessが州内の正規の医療制度の範疇で遠隔医療による中絶薬提供を行っている20州は調査の対象外とした。調査対象とした30州の顔ぶれは、ドブス判決後に中絶を禁止した12州、妊娠第6週以降の中絶禁止を実施した5州、規制の可能性を示唆したがまだ動きがない10州、そして現状維持の3州。

研究班は、ドブス裁判以前の2021年9月1日~2022年5月1日をベースラインとし、ドブス裁判の行方について情報漏洩があった5月2日~6月23日までと、判決が正式に明らかにされた6月24日~8月31日までの3つの期間に区分して、経口中絶薬の処方依頼の傾向を調べた。結果、Aid Accessは調査期間中にこれら30の州から、全体で4万2,000件以上の処方依頼を受けていたことが明らかになった。処方依頼の件数は、ベースラインでは1日平均82.6件であったが、情報漏洩後期間には137.1件に増え、さらに判決発表後期間には213.7件に跳ね上がった。

調査対象の州ごとの調査でも、情報漏洩後と、判決の公式発表後の両方の期間で処方依頼件数の増加が確認されたが、研究班によると、増加率は、中絶禁止を実施した州で特に高かった。生殖年齢にある女性住民10万人あたりの1週間あたりの増加率が最も高かったのは、ルイジアナ州、ミシシッピ州、アーカンソー州、アラバマ州、オクラホマ州だった。

経口中絶薬は女性の体と心への負担がより少なく、医師による外科処置なしに女性が主体的に中絶を行うのを可能にするアプローチである。ミフェプリストン(妊娠の継続に必要な女性ホルモンの分泌を抑える作用を持つ)とミソプロストール(子宮を収縮させる作用を持つ)という2種類の経口医薬品を組み合わせて服用することで人工的に流産を起こさせるもので、早期の中絶であれば95%の確率で中絶できるとされている。副作用はほとんどなく、極めて安全であり、欧米では20年も前から広く使われている。WHO(世界保健機関)も安全で効果的だとして経口中絶薬の利用を推奨している。しかしながら日本では、金属の器具でかき出す「そうは法」と呼ばれる手術で行われるケースが少なくない。経口中絶薬は現在、80以上の国と地域で使用されているが、日本では、大量出血のリスクなどがあるとして、インターネットでの個人輸入を介した中絶薬の入手について厚生労働省が注意喚起をしており、依然として認可されていない。

(了)


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