2023/06/22

メンタルヘルス・精神科医療におけるデジタル技術の活用(第6回)

うつ病に対するデジタル技術の応用【後編】

デジタルセラピューティクス, AI技術, 日本, 疾病管理・患者モニタリング, XR (VR/AR/MR)技術, 臨床医, 患者データ・疾病リスク分析, 精神疾患

(出所:Shutterstock)

デジタル療法の開発状況と普及における課題

うつ病に対するVRデジタル療法の開発
うつ病の治療選択の一つとして、研究開発に取り組む動きもあります。今回は、その中でもVR(Virtual Reality)を活用したデジタル療法をご紹介します。VRによるデジタル療法では、リハビリテーションや慢性疼痛の分野においては直近5年でアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認が下りたものもあり、その注目は徐々に増えつつあります。

うつ病の治療は前回の記事でも触れましたが、うつ病には様々なタイプが存在し、治療対象者の約3人に1人は薬物療法が奏功しないという報告もあります。1) その治療反応性の背景にある症状の一つに反芻思考が挙げられます。何らかの経験から、自己否定や過度な一般化の思考が繰り返されることで、うつ病の発症や増悪を助長させてしまいます。ところが、この反芻思考の改善に焦点を当てた治療方法に乏しいのが現状です。

このような課題がある中で、薬物療法を補完するため、うつ病を対象にしたVRデジタル療法が症状の軽減に有効に働いたという報告があります。2) 外界から遮断されることによりVRコンテンツ内の空間に集中できることや、他者視点で自身の話を聞くなどの現実では不可能な体験も可能です。仮想環境内でのトレーニングとなるため、プライバシーのリスクも低減できるでしょう。

(出所:株式会社BiPSEE)

日本において、うつ病を対象としたVRデジタル療法の開発に積極的に取り組んでいる企業が、株式会社BiPSEEです。3) 認知行動療法などの治療技法をベースにしており、現在は高知大学の研究機関とともに臨床研究を実施されています。予備研究では、反芻思考への対処スキルの獲得を目的とした、VRプログラムを体験したことで抑うつ症状や過剰な反芻思考に対して改善効果が示唆されました。今後は、導入されたプログラムが症状の改善に有効に働いた要因の探索や、医療機器として開発するために、厳密な開発プロトコルに則った研究の実施もされることでしょう。

(出所:株式会社BiPSEE)

現役精神科医の視点からの考察
うつ病における急性期や増悪・再燃期の治療は、入院を要する重症度であれば、まだ当面の間は薬物療法が優先されると考えられます。しかし、病状経過のモニタリングや外来通院における治療、回復期での支援や症状の再燃予防を目的とした分野の発展には、デジタルヘルスケアが大きく貢献してくれる可能性は十分にあるのではないかと感じました。

特にセルフモニタリングは他の疾患分野同様、症状の経過をより持続的かつ鋭敏に追いやすくなります。経過のデータを患者さんとそのご家族に共有することで、医療者との認識のずれを解消して、データをもとに症状変化の要因の評価や対処法をより具体的に協議できるようになるでしょう。グラフなどでデータが視覚化できると、さらに理解しやすくなり効果が期待されるでしょう。

(出所:Shutterstock)

治療としてのデジタルヘルスケアは、うつ病の分野においても認知行動療法でその効果が期待されています。薬物療法単剤では、なかなか効果が得られないような場合において、プログラム医療機器の併用療法で治療が進む可能性を秘めています。

ただ、実際にはうつ病とのみ診断されている方もいらっしゃる一方で、他の精神疾患を併存しているケースも実際の臨床現場では多くいらっしゃいます。うつ病という疾患のみで効果等が十分に確認できた後には、併存疾患を持つ患者さんにも効果が確認できるかは、今後の臨床研究で検証していきたい事の一つになりうるかもしれません。

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