2019/06/25

米国eHealthジャーナル試読版

米国におけるテレヘルス利用状況

テレヘルス, 行政・規制ニュース, VC投資・M&A・決算

CMS、メディケア・アドバンテージにおけるテレメディシン償還を拡大

デジタルヘルスに特化するベンチャー・ ファンドのRock Healthによると、同分野へのベンチャー・キャピタル(VC)投資のうち、ここ数年で最も金額が大きなカテゴリーは「オンデマンド・ヘルスケア・サービス」で、2018年には第3四半期末までに 41件の資金調達が行われ、投資額は総額12億7,000万ドルに達した。

オンデマンド・ ヘルスケア・サービスとは、医師や患者が必要なサービスや医療を、必要なときに、 どこにいても利用できるようにする技術で、リアルタイム・ビデオ対話などが含まれる。医療の多種多様な場面においてデータを遠隔に送信する、いわゆるテレヘルスと呼ばれるものの一形態だ。

テレヘルスの4つの様式

メディケア適用に厳しい条件
民間保険においては、テレヘルスの保険償還を認めるプランが増加傾向にあるが、メディケア*1においては、テレヘルス利用はこれまで限定的だった。
1997年に制定された「Balanced Budget Act」は、医療従事者が未充足のエリアであるHPSA(Health Professional Shortage Area)に認定された地域に居住するメディケア受給者を対象に、一定の条件を満たした場合のテレヘルス利用について、メディケア・パートB*2による支払いを認めた。これが、テレヘルスへのメディケア適用の始まりである。その後、2000年に成立した 「Benefits Improvement Act」は、テレヘルスのメディケア償還対象を大都市統計地域以外のすべてのカウンティ(郡)に居住するメディケア受給者へと広げ、同時にケア提供医療施設の定義を拡大した。

テレヘルスにはいくつかの形態があるが、メディケアではリアルタイム・ビデオ対話のみをテレヘルスの定義に含めている。これは、テレヘルス利用の目的が、専門医が不足している非都市部において、患者に必要な専門医療サービスをリアルタイムで提供することにあるからだ。そういった理由から、メディケアでの償還条件となる「サービス起点(originating sites)」 から大都市統計地域が除外されている。

また、患者が治療を受ける地元の医療機関が、テレヘルスを介して遠隔の別の医療機関とつながることで専門的医療サービスを提供することを想定し、患者が自宅で利用するテレヘルス・サービスは償還の対象にならない。例えば、急性脳梗塞の場合、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)の静注投与による血栓溶解療法が最も有効であるが、地方の医療機関に神経科医やその他脳梗塞専門医がいることは稀だ。

2011年のデータによると、血栓溶解療法の対象となる患者のうち、実際に治療を受けた患者は全体5%未満に留まるが、テレヘルスによって、地方病院が脳梗塞専門医とつながることができれば、tPA静注投与の指示を受けることができる。メディケアにおけるテレヘルスは、地方の患者が必要な治療を受けにくいという状況の改善を目指したものだ。

進む規制緩和
メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)*3は4月5日、2018年2月9日成立の「Bipartisan Budget Act of 2018」に基づき、2018年10月に発表したテレヘルス規定を最終化し、2020プラン年からメディケアアドバンテージ(MA)*4プランの基本給付におけるテレヘルスへの償還を認め、患者の医療アクセス手段として新たな選択肢を追加した。

MAプランでは以前から、補足給付としてテレヘルスへの支払いを認めていた。補足給付とは、通常のメディケアでは保険償還の対象とされていない歯科や眼科の医療サービスをカバレッジに追加するためのもので、多くのMAプランで提供されている。

補足給付は、受給者が個別に追加購入する場合もあれば、最初からプランに含まれている場合もあるなど、プランによって提供方法が異なるが、基本的に受給者が支払う月額保険料に追加料金を上乗せする形で実現される。それに対し、基本給付の対象にテレヘルスが追加されると、加入するプランによっても異なるが、基本的には受給者に追加負担はかからず、連邦政府資金でテレヘルスも賄われることになる。

CMSのSeema Verma局長は、基本給付の下でテレヘルス支払いを許可する今回の最終規定により、今後はより多くのMAプランがテレヘルスをカバーするようになると予想している。最終規定では、患者の自宅でのテレヘルス利用、また都市部に居住する受給者のテレヘルス利用への償還も認めている。同規定は、メディケア受給者によるテレヘルス利用を推進するものとなるが、規定変更の対象となっているのはMAプランのみである。

従来の「メディ ケア出来高払い(FFS)」システムの下で医療サービスを利用する受給者は、サービス起点の地理的要件を引き続き満たす必要があるほか、自宅から利用したテレヘルスは償還の対象とならない。

(了)


*1)65才以上が加入する高齢者向けの公的保険
*2)メディケアはパートA(自動加入の入院保険)、パートB(任意加入の外来診療保険)、パートD(任意加入の処方箋医薬品保険)で構成される
*3)65才以上が加入する高齢者向け公的保険のメディケア(Medicare)および貧困層向け公的保険のメディケイド(Medicaid)を監督する連邦機関で、米国最大の保険ペイヤー
*4)メディケア・アドバンテージ(MA)は、民間保険によって実施されるメディケア給付。メディケア受給者の34%がMAに加入してい


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