2023/01/24

米国eHealthジャーナル第81号

DTxのAlex Therapeutics社、肺線維症患者向けdCBTアプリを共同開発

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IPF新薬開発の近況:Vicore社、AI創薬のInsilico Medicine社ら

慢性で進行性かつ不可逆に肺機能が低下する、間質性肺炎の一型である特発性肺線維症 (Idiopathic Pulmonary Fibrosis、以下 IPF)。肺胞へのダメージの蓄積で、修復を担うコラーゲン繊維などが肺胞の間質に蓄積し、本来は柔軟な組織が硬く厚くなり線維化する。肺が十分に膨らまなくなることから、二酸化炭素と酸素のガス交換に支障を来し、呼吸困難を引き起こす。
疾患の進行を止めることが出来ない難治性肺疾患であり、予後が不良なことでも知られ、診断確定後の平均生存期間は3~5年と、癌と変わらない。さらに症状が短期間で著しく悪くなる急性増悪を来した場合は、2か月以内と極めて致死性が高い。
日本では国の指定難病に指定されており、より有効な新規治療薬の開発が急がれるアンメットニーズの高い疾患である。 

(出典) Shutterstock

身体的な症状の治療と並行して、患者が疾患を理解するための疾患啓発が重要である。
しかし、恒常的に呼吸困難感を抱えたIPF患者にとって、困難な治療という現実を目にすることの負担は計り知れない。自尊感情の低下やセルフケア能力の低下を引き起こし、不安症や鬱病を併発する可能性が高くなる問題が指摘されてきた。
まだ手薄なIPF患者の心のケアという社会課題に向き合おうという新しい取り組みが、デジタルヘルスの分野で進行している。


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Alex Therapeutics社
IPF患者の心のケアに、デジタル認知行動療法を共同開発

デジタルセラピューティクス(DTx)開発基盤を開発するストックホルムのAlex Therapeutics AB (以下、Alex社) は12月5日、重度肺疾患の治療法を開発するスウェーデンの製薬企業Vicore Pharma Holding AB と共同開発中のデジタル認知行動療法(dCBT)アプリ「Almee」を対象としたピボタル試験に最初の患者が登録されたことを発表した。

Alex社は自社開発したDTxの開発基盤「Alex DTx Platform」を有しており、DTx製品開発を目論む各社を提携相手に、各領域に製品開発、ライセンス供与をロールアウトするモデルを展開している。
同基盤で開発された「Almee」は、従来の認知行動療法に基づくデジタル認知行動療法。不安の第一選択治療として推奨されている認知行動療法だが、「Almee」はIPFに併発する可能性が高い不安や鬱など心理的症状の負担を軽減する、エビデンスに基づくサポートを提供する。
デジタル認知行動療法には年中無休24 時間でアクセスできるという利点があり、患者の個々のニーズとスケジュールに合わせてパーソナライズでき、これまでに他社が開発してきた処方箋DTxの多くが、このデジタル認知行動療法の枠組みに入る。
同プラットフォームをベースとした非医療用アプリ「Alex – Quit Smoking」、そしてPfizer社と共同開発した禁煙プログラム「Eila」に続き、「Almee」はAlex社2番目のDTx製品となる。

 
「Using software as medicine | Oliver Fleetwood | TEDxKI」、2022/06/10
(出典) TEDxKI

本ピボタル試験は、サンフランシスコ拠点のスタートアップ Curebase Inc. 社が提供するプラットフォームを介した分散型臨床試験として実施され、全米で成人被験者260名が登録、9週間のプログラムから成るランダム化並行群間比較試験としてデザインされている。
全般性不安障害のスクリーニングツールおよび重症度測定として使用される自己管理型のアンケートGAD-7(21点満点)によって評価された重症度のベースラインからの変化を調べることにより、PF 患者の不安に対するAlmeeの影響を調べる。
ピボタル試験に先立ち実施されたパイロット研究の結果も10月に発表されており、ピボタル試験の結果が期待できるものであった。

ピボタル試験のデータ読み出し(readout)は23年第4四半期を予定しており、好結果が得られ次第、24年中の発売を目指して薬事申請がなされる計画である。


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AI創薬市場を牽引するInsilico社
IPFも開発候補に

2014年に香港で産声を上げたAI創薬スタートアップの Insilico Medicine, Inc.(以下、Insilico社) は1月10日、IPF治療薬として開発中の「INS018_055」が、第1相臨床試験のトップラインデータにおいて、安全性、忍容性、薬物動態についてポジティブな結果が得られたことを発表した。

「INS018_055」は、エンドツーエンドのAI創薬プラットフォーム「PHARMA.AI」によって生成された初の抗線維性低分子阻害剤である。
Insilico社は、「PHARMA.AI」で自社内創薬事業を展開して独自のパイプラインを構築する一方、同プラットフォームを製薬企業にライセンス導出する事業を強化しており、直近では、過去最大規模となる戦略的研究提携契約を仏Sanofiと締結。現在では世界の製薬企業トップ20社のうち約半数で、InsilicoのAI創薬プラットフォームが活用されている。

「PHARMA.AI」は、疾患の標的特定、臨床試験の結果予測、新規分子データの生成の各領域で開発迅速化に貢献する3つの技術で構成されている。その1つである「PandaOmics」は、マルチオミクス解析を基盤とした新規標的の探索エンジンで、Insilicoによると、バイオインフォマティクスの知識がなくてもPandaOmicsを利用することでオミクスデータの分析を実行できる。「InClinico」は、疾病や標的、臨床試験に関するビッグデータに基づき、試験デザインの弱点を把握してその成功率を予測するプラットフォームだ。試験デザインの欠点を特定しながら最良の方法の採用を支援する。「Chemistry42」は、新規低分子の迅速なデザインを可能にする機械学習(ML)基盤の化合物生成プラットフォームで、Insilicoによると、Chemistry42を活用すれば、ほんの数日で新規の化合物の構造および設計を得ることができる。


出典:Insilico


出典:Insilico


出典:Insilico

抗繊維化活性と抗炎症活性で、肺線維症の病因に関係する主要な活性化シグナル伝達カスケードを標的とした「INS018_055」には、大きな期待が集まっている。Insilico社は2023年初頭にも、初期第2相試験を開始する予定である。

また、開発パイプラインによれば、「INS018_055」のターゲットとなる適応症はIPFに限定されず、腎繊維症や皮膚繊維症など、広範な線維性疾患に効果を発揮する可能性がある。

「INS018_055」は、AIが発見した新規標的に対するAI設計の新規分子であり、Insilico社の開発パイプラインで最も先行している、臨床試験に入った初の分子であるが、Insilico社にとって、そしてAIを活用した創薬の歴史において、重要なマイルストーンを刻んだと言えよう。

(了)


本記事は以下の公式発表を翻訳要約し、適宜解説を加えたものである。


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