2022/12/27

米国eHealthジャーナル第79号

てんかん患者のゼロ発作を目指す韓国製薬企業、CES 2023に出展

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SKグループ;抗てんかん薬「Cenobamate」とデジタル技術との連携

最先端の技術や電子機器、関連サービスを展示するテクノロジー見本市「CES 2023」が、年明け1月5日(木)から8日(日)まで、米国ネバダ州ラスベガスで開催される。

本年1月に開催された「CES 2022」は、対面とリモートをミックスしてハイブリッド開催されたが、直前にオミクロン株の感染拡大により出展を取り止める企業が続出するなど、完全リモートの「CES 2021」から再出発しようとしていた産業界は、アフターコロナの出鼻をくじかれた形となった。それだけに、今回のCES 2023へ集まる期待は大きい。

現時点での発表によれば、CES 2023はビフォーコロナの CES 2020 の水準 ~ 来場者数17万、出展社数4,400社 ~ には遠く及ばないが、出展社数は合計2,400社(新規出展が約1,000社)、来場者数が10万など、前年に比して1.5倍の規模での開催となる見込みだ。

注目キーワードには、ヘルスケア、モビリティ、ウェブ3.0/メタバースが挙げられており、初日には、「The Future of Care in America: A New Hybrid Model」と言うタイトルで、テレヘルスのTeladoc社による基調講演が行われる。デジタルが患者ケアにもたらすイノベーションが、ただ奇をてらうかのような代物ではなく、実体あるものとして語られる場としても注目される

世界最大級の規模を誇るだけあり、米国外から出展する各社もマーケティング活動に余念がない。韓国からは、サムソン電子、LG電子、SKイノベーション、現代重工業の他、多くのスタートアップが参加する。
本稿で紹介するのは、中枢神経系(CNS)疾患に対する治療法の研究・開発・商業化に取り組む SK Biopharmaceuticals Co., Ltd. (以下、SKBP社)  、ならびに米国子会社 SK Life Science, Inc. (以下、SKLS社)  。てんかん患者のゼロ発作の可能性を追求するミッション「Project Zero」を掲げ、デジタル技術を活用したトータルなヘルスケア・ソリューションの提供を目指す韓国の製薬企業である。

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てんかん発作のゼロを目指す「Project Zero」ウェアラブル機器群

SKBP社は11月16日、同社が開発するウェアラブル機器「Zero Glasses」、「Zero Wired」が、CES 2023イノベーションアワードを受賞したことを発表した。

・スマートグラス「Zero Glasses」

(出典) SK

・有線デバイス「Zero Wired」

(出典) SK

 「Zero Glasses」、「Zero Wired」は、てんかん患者の脳活動や心拍リズム、体動などの各生体信号をリアルタイムに監視することにより、てんかん発作を検出・予測し、発作時には記録するデバイスである。
この他、同製品ラインアップの「Zero Headband」、「Zero Earbud」、「Zero Headset」、統合アプリ「Zero App」も展示される予定。

これら「Zero」商品名は、抗てんかん薬「セノバメート (Cenobamate)」を通じて、てんかん患者の「発作ゼロ (Zero Seizures)」を実現するというミッションに由来している。

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抗てんかん薬「セノバメート (Cenobamate)」

SKBP社 / SKLS社は、デジタル技術に特化したテック系企業ではない。エネルギー、化学、半導体、通信など各業界を牽引する、韓国第2位(2021年)の財閥SKグループの一角を占める製薬企業である。
SKBP社は1993 年、SK グループの次世代の成長エンジンを探す使命を果たすべく新薬の基礎研究を開始し、現在ではソウル近郊の城南市に設立された韓国版シリコンバレー「板橋テクノバレー」に生物科学研究所を構え、米国ではニュージャージー州パラマスを本拠とするSKLS社が臨床開発とマーケティングを担っている。

同社は2019年11月、成人患者の部分てんかんを適用とした抗てんかん薬「セノバメート」が米FDAから製造販売承認されたことを発表し、2020年5月に商品名「XCOPRI」で販売開始した。
詳細な作用機序は明らかとなっていないが、電位依存性ナトリウム電流を阻害することにより、ニューロンの反復発火を減少させると考えられている。既存の抗てんかん薬を複数使用しても、てんかん発作を十分に抑制できない患者が全体の約3割を占めるてんかんは、現在もなおアンメットニーズの疾患であり、同社にかかる期待は大きい。


(出典) SKLS

日本では2020年10月13日、小野薬品がSKBP社とライセンス契約を締結したことを発表している。小野薬品が日本において独占的に「セノバメート」を開発・商業化する権利を取得した一方、SKBP社は日本において第Ⅲ相治験(~24年10月)を自ら実施している。

「セノバメート」は、韓国企業が自力で創製、研究、開発し、FDA承認を得た初の薬剤である。SKBP社/SKLS社が目指す、基礎研究・臨床開発から生産、販売までバリューチェーン全体を一気通貫で備えたグローバルな総合製薬会社 (Fully Integrated Pharmaceutical Company、FIPCO) モデルに一挙に近付いたこととなる。


(出典) SKLS (Epilepsy Alliance America)

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デジタルトランスフォーメーションを強化するSKBP社/SKLS社

SKBP社は12月13日、デジタルヘルスケア領域における同社のビジョンとロードマップを発表し、てんかん患者のゼロ発作の可能性を追求するミッション「Project Zero」を掲げ、ウェアラブルデバイスの開発を含む、デジタル技術を活用したトータルなヘルスケア・ソリューションを目指していく考えを示した。
SKBP社/SKLS社は現在、臨床開発パイプラインに8つの化合物を有している。てんかんに加え、睡眠障害や神経因性疼痛、アルツハイマー型認知症、不安症やうつ病、統合失調症など、中枢神経系疾患を重点領域とし、オンコロジー領域でも早期研究を実施していることを明かしており、デジタルヘルスケアソリューションを拡充して行く意向だ。

本稿で取り上げた「Zero」シリーズ製品については現段階で詳細情報が発表されていないため、本誌ではCES 2023後に取材を申し入れている。

 

[アップデート、2023/02/24]
同グループの YouTube チャネルに、CES2023 出展ブースの模様が紹介されている。
[CES2023] SK 부스 투어 (11分54秒~12分39秒)、 SK 、 2023/01/06
「Zero」は、23年中の臨床試験が計画されている。

同パートに続いては、22年5月に投資・提携を発表した、本態性振戦に対する非侵襲的治療デバイス「Cala Trio」を開発するサンマテオのスタートアップ Cala Health, Inc. を確認することができる。

(了)


本記事は以下の公式発表を翻訳要約し、適宜解説を加えたものである。


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