2022/12/13

米国eHealthジャーナル第78号

Sanofi、AI活用で医薬品開発の効率改善を模索

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BioMedXと共同研究プロジェクトを開始

新しい産学協同型オープン・イノベーションを推進するドイツのインキュベーションセンターで生物医学研究機関のBioMedXは10月24日、人工知能(AI)を活用した医薬品開発についてフランスの製薬大手Sanofiとの共同研究プロジェクトの開始を明らかにした。このプロジェクトでは、デジタルデータとAIを活用し、新薬候補の90%が臨床開発段階で失敗するというボトルネックの解消を目指す。アトピー性皮膚炎や炎症性大腸炎といった慢性免疫介在性疾患分野で初期モデルの概念実証を実施する。

SanofiはAIの活用に積極的で、2021年11月にはAI創薬企業のOwkin、2022年1月にはAI創薬に特化する英国企業のExscientiaと提携している。Owkinとの提携は、OwkinのAI技術および連合学習(Federated Learning)技術を利用して癌治療薬のパイプライン拡充を目指すもので、臨床試験デザインの最適化、疾病リスクや治療アウトカムの予測が可能なバイオマーカーの特定、ならびに非小細胞肺癌、トリプルネガティブ乳癌、中皮腫、多発性骨髄腫の治療薬開発に取り組んでいる。Exscientiaとは、癌と免疫学分野で最大15の低分子医薬品候補を開発する目的で共同研究およびライセンス契約を締結した。

BioMedXは、世界各地の主要大学や研究所に所属する若手研究者を対象に、ボトルネック解消のための具体的な提案を募集する。有望なプロジェクト案を選出後、それを提案したチームに5日間の教育訓練プログラム(ブートキャンプ)に参加してもらい、SanofiとBioMedXが共同で採用プロジェクトを決定する。採用されたチームは、最大5年間にわたりBioMedXのハイデルベルグ大学キャンパス内の研究施設で研究を行う。


出典:BioMedX

BioMedXは現在、癌、免疫学、神経科学の各分野でエクスビボ・モデルやデータサイエンスについて製薬企業が提示した課題に対し、同様のプロセスを経て選出した11のチームを支援している。BioMedXは、AION Labとの2021年10月の戦略的提携に基づき、イスラエルでAI分野のスタートアップ育成を支援してきた経験を、Sanofiとの提携に生かす意向だ。

AION Labは、医薬品の発見と開発にAIと計算生物学を活用するスタートアップを複数設立し、これらに投資することを目的とするベンチャー・ハブで、英国の製薬大手AstraZeneca、米製薬大手のMerckとPfizer、そしてイスラエル拠点のTeva Pharmaceutical Industriesの大手製薬4社と、Amazon Web Services、イスラエル拠点のバイオテク企業への投資に特化するIsrael Biotech Fundが共同設立した。AION Labでは、設立したスタートアップのそれぞれに対して一流のリソースと指導を提供し、AION Labとの緊密な協力の下で、製薬業界における重要かつ緊急な課題に対処する新技術の開発に取り組む。各スタートアップは、AIのパワー、クラウドの拡張性とセキュリティを活用して、新規の治療法をより迅速かつ効率的に発見し、動物実験を回避し、患者中心の精密医療に向けたヘルスケアの推進を図る。

(了)


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