2022/08/23

米国eHealthジャーナル第71号

Novartis、AI基盤の心電図アルゴリズム開発でAnumanaと提携

AI技術, Anumana, 提携, ジャーナル第71号, 診断・検査・予測, デジタルセラピューティクス, Novartis

エビデンスに基づくデジタル・ポイントオブケア・ソリューションを開発

人工知能(AI)を基盤とした心電図(ECG)アルゴリズムの開発に特化するAnumanaは7月13日、「隠れた心血管疾患」を検出するためのAI基盤ECGアルゴリズムの開発と提供を目的として、スイスの製薬大手であるNovartisと提携したと発表した。

Anumanaは米国の非営利アカデミック医療センターであるMayo Clinic(ミネソタ州ローチェスター)とマサチューセッツ州ケンブリッジ拠点のソフトウェア開発企業Nferenceが2021年4月に設立した合弁企業。Mayo Clinicはヘルスケアのデリバリーやイノベーションの加速にAIを含むデジタル技術を活用することに積極的で、2019年9月には、データ解析、機械学習、AIを活用したヘルスケア分野の問題解決とイノベーションの加速を目的にGoogle と10年間の戦略的提携契約を締結している。

Not displayed properly, along with End Of Support Lifecycle of Internet Explorer.
出典:Anumana

Novartisとの提携でAnumanaは、Mayo Clinicの専門家と協力し、心不全の前兆である左心室機能障害または心臓ポンプ機能低下の兆候、また動脈壁の肥厚化により心臓発作や脳梗塞リスクをもたらすアテローム性動脈硬化症について、ECGデータを分析して検知できるようAIを訓練する。さらに、回避可能な入院や心血管死リスクの低減を目的に、エビデンスに基づくデジタル・ポイントオブケア・ソリューションを開発するという。

NovartisにとってAnumanaとの提携は、医薬品提供の価値をより高めるとともに、医薬品の提供にとどまらないサービスやソリューションの提供者となることを意味する「Beyond the pill」戦略の一環となる。Beyond the Pillは文字通り、「医薬品を超える」ことを意味し、医薬品を包含しつつ、健康や医療に関わるより広範な課題の解決に向けて製薬企業が積極的にサービス提供に取り組もうとするものだ。情報通信技術(ICT)の進化が医薬品産業にも大きな影響を与え、製薬企業各社が医薬品の提供以上の価値創造を目指してデジタルヘルスケア領域への取り組みを加速させる中で、キーワードとなっている。Novartisは、同社の主力製品の1つでブロックバスター医薬品である心不全治療薬のEntrestoを保有しており、Anumanaとの提携によりEntrestoのBeyond the pill戦略をさらに推し進める。

Novartisは2019年11月には Entrestoを服用する患者のデータ管理を目的として、デジタルセラピューティクス(DTx)企業のBiofourmisと提携している。心不全データの分析に特化したBiofourmisのAI基盤プラットフォーム「Biovitals HF」を利用し、センサーや携帯アプリを通じて取得したEntresto服用患者のデータを患者の電子医療記録(EMR)に統合する。目的は、心不全悪化の初期兆候を検出することで早期介入を可能にし、治療アウトカムを改善することだ。心不全悪化やヘルスケアシステムの費用負担増につながる疾患の悪影響を、Entrestoによって軽減できることをデータで示したい考えだ。

Novartisは、心不全の症状モニタリングと管理、そして悪化の兆候を検出するデジタル技術を開発するスタートアップ企業の発掘と支援にも積極的だ。Novartisは2018年と2019年に、IT系のスタートアップに関するニュースの配信で知られるメディア、TechCrunch主催の年次会議に、バーチャル・ハッカソンを開催するスポンサー企業の1社として参加している。ハッカソンとは、一定期間内に課題のソリューションとなるプログラミングを完成させるコンテストで、勝者は通常、賞金や開発支援などを得る。TechCrunch年次会議では2018年以降、ハッカソンのバーチャル化により世界中のプログラマーやディベロッパーが参加可能となっている。Novartisは2018年、心不全患者のモニタリングや症状管理、悪化の予測などのためのデジタルソリューションの開発を課題とし、6週間のハッカソン期間を経て、最終的に遠隔患者モニタリング技術を開発するVeta Healthと、DTx開発企業Wavy Healthの2社を勝者とした。2019年には、心不全患者にケアを提供する家族を支援するモバイル・ソリューションの開発を課題とするMobile Health Challengeを主催し、アバター基盤のアプリを開発するSense.lyを勝者に選出した。

(了)


本記事掲載の情報は、公開情報を基に各著者が編纂したものです。弊社は、当該情報に基づいて起こされた行動によって生じた損害・不利益等に対してはいかなる責任も負いません。また掲載記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
Copyright © 2022 株式会社シーエムプラス LSMIP編集部

連載記事

執筆者について

関連記事