2023/05/23

米国eHealthジャーナル第88号

Rock Health、デジタルヘルス投資トレンド報告書を発表

研究・調査, ジャーナル第88号, Rock Health, VC投資・M&A・決算

2023年第1四半期にはデジタルヘルス投資が若干回復

デジタルヘルスに特化するベンチャー・ファンドのRock Healthは4月3日、デジタルヘルス領域における2023年第1四半期のベンチャー・キャピタル(VC)投資トレンドを分析した報告書を発表した。同報告書によると、2023年第1四半期には132件のVCディールに対して総計で34億ドルの資金が投下された(Rock Healthでは200万ドル以上のVCディールのみを集計)。

第1四半期の投資額は過去2四半期の投資額(2022年第3四半期は22億ドル、第4四半期は27億ドル)を上回ったが、これは、2021年と2022年初頭に見られた活況な資金調達環境への回復を示唆するものではないと著者らは指摘した。

デジタルヘルス領域へのVC投資は過去2四半期で大きく減速したが、2023年第1四半期には、1億ドル以上の投資ラウンドを意味するメガディールが直前2四半期と比較して増加した。報告書によると、第1四半期には6件のメガディールが実施され、これは同四半期のデジタルヘルス関連の資金調達総額の40%を占めた。直前2四半期のメガディール件数は2四半期合計で6件だった。しかしRock Healthでは、「全体として、第1四半期におけるメガディールの増加は、必ずしもセクターの回復を予感させるものではない」としている。2023年第1四半期のメガディール6件の中には、腎臓病治療にフォーカスするMonogram Healthの3億7,500万ドル、人材派遣スタートアップShiftKeyの3億ドル、臨床試験プラットフォームParadigmの2億300万ドルが含まれる。

新規株式公開(IPO)によるエグジットは閉ざされたままだ。報告書によると、第1四半期のIPO件数はゼロだった。また、2023年初のデジタルヘルス関連銘柄の取引価格は、2021年の年初と比較して50%近く低かった。

出典:Shutterstock

不況下で厳しい状況にあるIPO環境は、資金調達を望む後期段階スタートアップにディールの模索を余儀なくさせ、大型ディールを増加させた理由の1つとなっている可能性がある。報告書によると2023年第1四半期には、他のディールステージと比較して、シリーズD以降のラウンドの割合が前年より増加している。ただし、シリーズD以降のディールサイズの中央値は、2022年の7,200万ドルから5,800万ドルに減少している。

Rock Healthは、Silicon Valley Bank(SVB)破綻の余波が、デジタルヘルス関連の資金調達にも及ぶ可能性を指摘している。「SVBが新興企業のエコシステムをどれだけ支えていたかは、いくら強調してもしすぎることはない。SVBの破綻が技術革新に与える影響の全容が明らかになるのは数四半期後になると考えられるが、資金調達面では今後数四半期にわたって、同行の破綻によりスタートアップ企業による資金調達がより保守化すると予想される」とした。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の公衆衛生上の緊急事態が終息に向かう中で、デジタルヘルスに対する規制環境も変化している。連邦議会ではヘルスケア・データと位置情報のプライバシー法案が提出され、連邦取引委員会(FTC)はデジタルヘルス企業が広告を目的にユーザーのヘルスケア・データを第三者と共有することを取り締まっている。FTCは2月には、 消費者のヘルスケア・データを保有するベンダーに対し、データ漏洩が起きた場合にその事実を消費者に通知することを義務付けるFTCの「Health Breach Notification Rule」に基づく初の強制措置を、デジタルヘルス企業のGoodRxに対して講じた。FTCによると、GoodRxは、金銭的対価を得て、同社が保有するユーザーの健康状態や利用中の処方箋医薬品に関するデータを、ターゲット広告を目的とするFacebookやGoogleなどのなど第三者に不正に開示し、その事実を消費者に通知しなかった。GoodRxは、FTCの見解を否定し、同社はいかなる違法行為も行っていないとしたうえで、 裁判の進行による時間と資金の無駄を回避するために150万ドルの和解金を支払うことに合意した。

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「旺盛な需要、緩い規則、チープマネーといった2021年のデジタルヘルスの“西部開拓時代”が失われたことを嘆く声もあるかもしれないが、次の時代には、規制の“ガードレール”がイノベーションの阻害ではなく先導の役割を果たすことによって、デジタルヘルスのアントレプレナーシップとイントラプレナーシップ(社内ベンチャー)が育まれるだろう」と著者たちは記している。

(了)


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