2023/02/28

米国eHealthジャーナル第83号

Rock Health、2022年のデジタルヘルス投資トレンド報告書を発表

研究・調査, VC投資・M&A・決算, ジャーナル第83号, Rock Health

COVID-19時代の投資ブームを中心としたマクロな資金調達サイクルの末期

デジタルヘルスに特化するベンチャー・ファンドのRock Healthは1月9日、デジタルヘルス領域における2022年のベンチャー・キャピタル(VC)投資トレンドを分析した報告書を発表し、いくつかの教訓を提示した。

2022年は、急速に進むインフレとテクノロジー企業を中心とした株価の急落、そして7回にもわたって実施された利上げによって、景気後退の懸念に見舞われた1年となった。この困難な経済変化の1年において、それまで上昇気流にあったデジタルヘルス企業の「価値」の多くが失われ、ユニコーン企業は低迷し、また大口の新規株式公開(IPO)の機会は閉ざされた。

同報告書によると、2022年通年では572件のVCディールに対して総計で153億ドルの資金が投下された(Rock Healthでは200万ドル以上のVCディールのみを集計)。この投資水準は、過去最高を記録した2021年の293億ドルを大きく下回るものとなったが、2020年の147億ドルをわずかに上回る結果となった。1ディールあたりの平均投資水準についても、投資総額と同様に、過去最高の3,970万ドルを記録した2021年から大幅な縮小へと転じ、2022年には2,670万ドルとなった。2020年の1ディールあたり平均投資水準は3,060万ドルだった。

出典:Shutterstock

報告書によると、2022 年の減速の一因として、メガディール(調達額1億ドル以上のラウンド)が比較的少なかったことが挙げられる。2022年のメガディールはわずか35件で、2021年の88件と比較して大きく減少している。2020年でさえ、メガディールは43件と、2022年よりも多かった。
前年四半期比投資額については、2020年第2四半期における若干の落ち込みを例外として、2019年第3四半期から2021年第2四半期にかけて、7四半期にわたって増加した。しかしながら、四半期ベースで過去最高記録となった2021年第2四半期のピーク(84億ドル)以降は、投資の減速傾向が浮き彫りとなり、ほぼすべての四半期で、四半期が進むごとに落ち込みが加速している状況だ。

2022年下半期の四半期平均投資額は約24億ドル(第3四半期が22億ドル、第4四半期が27億ドル)で、Rock Healthは、景気後退の懸念がある中でのこの数字は、今後の数四半期を占う試金石となるかもしれないと述べている。つまり2023年は、2019年以来初めて、デジタルヘルス企業の総資金調達額が100億ドル以下の年になるかもしれないということだ。

Rock Healthによると、デジタルヘルス分野にとって2022年は下り坂で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)時代の投資ブームを中心としたマクロな資金調達サイクルの末期を示唆するものだと考えられる。しかしながら、下り坂にはポジティブな意味合いとネガティブな意味合いの両方があり、2022年の投資トレンドから得られる洞察は、現在の市場環境において最も有利に立ち回るのに役立つ教訓を与えてくれるという。

Rock Healthは2022年の教訓として―――1)デジタルヘルス分野における3年間の「資金サイクル」が終了するに伴い、投資市場はより持続可能なものに落ち着く可能性が高い、2)現在のVC投資環境においては、ユニコーン企業よりも非ユニコーンの優良企業に対し投資家の注目が高まる、3)利益率の減少に直面する中で大規模ヘルスケア組織やヘルスシステムは短期的ニーズにフォーカスしがちだが、それでも一部の組織は将来に向けて継続した投資を行う、4)ヘルスケア以外の領域で「変革」を成功裏に導入してきた組織でも、ヘルスケア市場においてディスラプションを起こすことはそれほど簡単ではない、5)マクロ経済の流れに逆らうことはできない――――の5点を挙げた。4)は、大手テクノロジー企業が身をもって学んだことである。

Rock Healthによると、大手テクノロジー企業はヘルスシステムと並び、2022年に苦戦を強いられた。アクティブユーザー数の変動や広告収入の低迷を原因とする収益率の低下は、多くのテクノロジー企業の株価を急落させており、こうした圧力はMAMAA(Meta、Alphabet、Microsoft、Amazon、Apple)勢を、従来のソーシャルメディア広告以外の新たな収益機会模索へと向かわせている。大手テクノロジー企業の2022年は、収益源の多様化に取り組み、データインフラ、分析、ファイナンスのビジネスを構築するとともに、言うまでもなく、ヘルスケアイノベーションに本格的に挑戦した1年であった。

2022年初頭、大手テクノロジー企業には潤沢な手元資金があった。MAMAAは社内の実験的なヘルスケアプロジェクトを支援するとともに、企業提携や買収を介して、新しい領域に足を踏み入れた。しかし、時と共にプロジェクトコストが嵩み、実験的プロジェクトのいくつかは精査され、中止もしくは売却されることとなった。そして2022年第4四半期になると、より保守的な考え方が採用されるようになり、大手テクノロジー企業が、既に実績のある自社の事業分野にデジタルヘルスを統合させた戦略を打ち出すようになった。例えばAmazonは、売り手と買い手を結びつける両面市場(Two-Sided Market)の構築と拡大の経験を活かし、サードパーティ・テレヘルスプロバイダーのアクセスを消費者に提供するAmazon Clinicを立ち上げた。Alphabetは、そのルーツに立ち返り、臨床医向けや消費者向けの医療用検索イニシアチブをいくつか発表した。Metaは、その人工知能(AI)技術をタンパク質の折り畳みに応用し、一方のAppleは、ウェアラブルデバイスの臨床的有用性を実証するために投資した。

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市場環境は低迷しているものの、悲観的になる必要はないとRock Healthは述べている。2022年は、投資とは循環的なものであること、そして強いプレーヤーは不況を乗り切る中でレジリエンスを構築するということを浮き彫りにした年となった。ヘルスケア関連スタートアップや企業にとっての2023年は、現金管理、収益変動に対応するための組織再構築、技術インフラへの投資といった、地道かつ着実な、そしておそらく退屈ですらある戦略の上に築かれると予想されるが、春はすぐそこに来ている、とRock Healthは述べている。今日の賢明な決断が、次の投資上昇トレンドにおける肥やしとなるだろう。

(了)


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