2022/01/11

臨床医が解説するアジアのヘルステック(第2回)

眼科医師の診断を補助する網膜画像診断システム、SELENA+

臨床医, 医療コミュニケーション支援

網膜画像の読影補助により想定されるメリット

(出所:shutterstock)

最近、臨床の場において問診やCT画像診断の補助のためにAIが活用され、注目を集めている。AIをうまく活用すれば、医師の負担は減り、医療の質が維持されるので患者は最適な治療を受けることができ、医療費の削減にもなる。
今回紹介するEyRIS社の「SELENA+」は、網膜疾患スクリーニング検査を補助するAIである。患者の網膜のデータがウェブ・プラットフォームを介して提出されると、「SELENA+」の画像が解析され、糖尿病網膜症、緑内障、加齢黄斑変性の兆候が発見され、診断結果がレポートとして送り返される。「SELENA+」が現在診断できる3疾患は、中途失明の上位を占めることでよく知られている。

特に糖尿病網膜症の原因となる糖尿病の患者数は世界的に増えており、国際糖尿病連合(International Diabetes Federation)によると2021年の時点で5億3700万人、大人の10人に1人といわれている。また、今後20年で2億人以上増えると予想されている。糖尿病患者の約3人に1人は、合併症である糖尿病網膜症を発症することがわかっている。糖尿病網膜症を発症すると、網膜の血管が破れることにより失明する可能性があり、患者の生活の質が著しく低下する。ただし、糖尿病網膜症の約8割は予防または進行を遅らせることができると考えられている。つまり、糖尿病と診断されたら定期的に眼底検査を受け、網膜の状態を確認することが糖尿病網膜症による失明を防ぐために重要である。

このような背景があり、「SELENA+」は糖尿病網膜症の兆候を発見し、糖尿病によって引き起こされる予防可能な失明の割合を減らすためにシンガポール眼科研究所とシンガポール国立大学の臨床医と技術者によって開発された。「SELENA+」を網膜疾患スクリーニング検査として活用すれば、治療が必要な患者とそうでない患者を識別することができ、医師や看護師の実務における仕事量も減る。気になるのは精度だが、検証した結果、「SELENA+」は失明のリスクがある糖尿病網膜症の症例を100%検出することが可能であり、また、緑内障の疑いと加齢黄斑変性に関しては90%以上の感度と特異度を達成した、と発表している。
「SELENA+」は、世界で高く評価されており、すでに臨床の現場でも活用され始めている。例えば開発国であるシンガポールでは、全国的なスクリーニング検査に採用されている。また、アメリカのニュージャージー州では、「SELENA+」が医学生との共同で、遠隔診療における網膜疾患スクリーニング検査を提供したことがある。

(出所:EyRIS社)

今後、「SELENA+」を開発したEyRIS社は、心血管イベントのリスク診断、患者の慢性腎臓病や心血管疾患、認知症などを検出する次世代製品の開発を目指している。慢性腎臓病は、糖尿病や高血圧などのような生活習慣病や膠原病、感染症など、さまざまな原因によって腎臓の機能が低下する病気である。腎臓の機能が著しく低下すると、身体の中の余分な水分や老廃物を尿として排出できなくなるため、透析や腎移植が必要になることがある。しかし、糖尿病網膜症と同様に慢性腎臓病の初期には何も症状がないことがほとんどで、気づいた時にはかなり進行していることも多い。慢性腎臓病も早期であれば予防、または進行を遅らせることがわかっており、スクリーニング検査によって早期診断できることの有益性が高い。そこでEyRIS社は、網膜の血管の変化から慢性腎臓病を診断するための開発を進めている、と述べている。現時点では、慢性腎臓病の早期発見のために尿検査を行っている。腎臓の血管に異常が起きると、本来は尿中に出てこないはずの蛋白が出てくるので尿検査で調べることができるからだ。ただ、尿蛋白が出ている時点で、腎臓の血管に大きな異常が起きている可能性もある。網膜の血管は、全身の血管の状態をよく反映するといわれているので、尿所見よりも前に網膜所見で慢性腎臓病を診断できるかもしれない。

このように、AIによる網膜疾患スクリーニング検査は目の病気の有無を調べるためだけでなく、さまざまな全身の病気の早期発見・早期治療につながることが期待される。


【EyRIS社について】


EyRIS社は、シンガポールを拠点とし、ヘルスケア業界におけるAIディープラーニングシステムの開発・展開を専門とするスタートアップ。同社の主力製品である「SELENA+」は、3つの疾患(糖尿病性網膜症、緑内障の疑い、加齢黄斑変性症)の検出で薬事承認を取得している世界で唯一のAIディープラーニングシステムである。1年半の間に、ISO 13485の認定と、シンガポールHSA、欧州CEマーク、マレーシアMDA、インドネシアの規制認証、ブラジルのANVISAという5つの規制認証を取得。また、EyRIS社は、国内外で数々の賞を受賞し、現在、25カ国以上で事業を展開している。


【出典】

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