2019/07/23

米国eHealthジャーナル試読版

Livongoの糖尿病管理用スマホアプリ、1人当たりの1ヶ月医療費を88ドル削減

行政・規制ニュース, 糖尿病, 疾病管理・患者モニタリング, Livongo, 研究・調査

Livongoはメディケア・アドバンテージ(MA)プランの認定プロバイダーに

慢性疾患患者向けにスマホアプリを利用した疾病管理プログラムを提供するデジタルヘルス企業のLivongoは5月9日、同社の糖尿病管理プログラムを1年間利用した患者では、1人当たりの1カ月の医療コストが約22%減少し、88ドルの節減が達成されたと報告した。

大手製薬企業のEli Lillyから資金提供を受け、RAND CorporationとUniversity of California Berkeleyの研究者らによって実施された同研究、「Reduced medical spending associated with increased use of a remote diabetes management program and lower mean blood glucose values」は5月8日付でJournal of Medical Economicsオンライン版に掲載された。

スマホアプリを利用したLivongoの疾病管理プログラム

米国には、デジタルヘルス基盤の疾病管理プログラムが多数存在するが、中でも糖尿病は最も活発な疾病分野である。

糖尿病は患者人口*1 が多く、血糖値という客観的評価指標が存在し、さらにそれを容易に測定できるためだ。Livongoのほかに、Omada Health、Glooko、Virta、WellDocといった企業がアプリを利用した糖尿病管理プログラムを提供している。

いずれのプログラムも、家庭用の血糖値測定デバイスと、スマホアプリを利用したオンライン・コーチング、および疾病モニタリングがコア要素となっている。

上記の企業のうちVirtaは、ケトジェニックダイエットと呼ばれる食事改善を通じて2型糖尿病患者の病状を逆転させて医薬品服用量カットを目指しているが、それ以外の企業のプログラムは、なんらかの糖尿病治療薬の利用が前提となっており、LivongoはEli Lillyと、GlookoはNovo Nordiskと提携している。

米国におけるアプリ基盤の疾病管理プログラム市場は「B to B to C」が基本であり、雇用主や民間保険などのペイヤーに訴求して保険償還対象製品となることがデジタルヘルス企業の「エグジット」の主流だ。
患者にとってこれらのプログラムは、自身の保険プランのカバレッジの1つであり、他の医療サービスと同様に、保険プランによって定められた一部負担金(co-payもしくはco-insuranceと呼ばれる)を支払って利用することになる。

Livongoによると、研究実施当時の糖尿病管理プログラムの利用コストは1人当たり1カ月平均68ドルであったため、プログラムへの投資により、雇用主や民間保険企業に節減がもたらされたことになる。今回発表された研究は、Livongoの糖尿病管理プログラムがカバレッジに含まれる健康保険プランを従業員に提供する複数の企業を対象として実施された。

約1万人の被験者(糖尿病患者)のうち、プログラムへの加入を希望して少なくとも一度血糖値を検査した2,261名と、プログラム非加入の8,741名をプログラム開始1年後に比較したところ、プログラムの利用者でより優れた疾病管理と医療費削減が達成されていた。

同研究は、患者の自主的なプログラム加入をベースとした非盲検試験であり、疾病管理に関心の高い患者層が利用群に多く集まっている可能性がある。

治験担当医によると、ベースラインの医療費がより高額な患者が、プログラムへの利用を希望する傾向が多かった。


 Livongo
 

ビジネスを拡大するLivongo
Livongoは着々とビジネスを拡大し、顧客ベースを広げている。現在、複数の民間保険会社やPBM*2 (薬剤給付管理会社)、また、自家保険を提供する多くのフォーチュン500企業を含む、650以上の組織で同社の疾病管理プログラムが導入されている。

4月には、AmazonのAI搭載デジタルアシスタント「Alexa」の医療用スキル*3 を開発する認定企業の1社に選定された(試読版1号(2019年6月発行)記事「AmazonのAlexaにHIPAA準拠医療サービスが登場」を参照 )。

「Alexa」のHIPAA*4 準拠によって可能となった新スキルの開発は、Amazonから招待を受けた6組織に限定されており、Livongoは唯一のデジタルヘルス企業である。Livongoが開発した血糖値監視スキル「Livongo Blood Sugar Lookup」は、Amazon.comから無料で入手できる。

Livongoは4月30日、メディケア・アドバンテージ(MA*5)プランの認定サービス・プロバイダーとしてメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS*6) の認定を受けたと発表した。

そして、早くも6月から、オレゴン州拠点の保険プラン提供企業Cambia Health SolutionのMAプラン加入者において、Livongoの糖尿病管理プログラムが利用可能になることを明らかにした。
糖尿病管理からスタートしたLivongoは、前糖尿病や高血圧症の患者を対象とする管理プログラムも手掛けるようになり、2018年4月発表のRetrofit買収を通じて体重の管理にも手を広げた。

また、2019年1月には、MyStrengthを買収し、精神疾患分野におけるプレゼンスも獲得した。MyStrengthは、オンライン認知行動療法(CBT)アプリを提供する企業で、全米32州で提供されている130以上の保険プランで採用されている。

LivongoはMyStrengthの買収と並行して、Ginger.ioの共同創設者で元CEOのAnmol Madan博士をLivongoのチーフ・データ・オフィサーとして、また退役軍人局(VA)の元メンタルヘルスサービス担当ディレクター、Julia Hoffman博士をLivongoのメンタルヘルス戦略担当VPとして起用した。

Ginger.ioは、MIT Media Labから誕生したサンフランシスコ拠点のデジタルヘルス企業で、メンタルヘルスケア分野において様々なデジタルサービスを提供している。

Livongoは5月15日には、MyStrengthの新サービスとして、メンバーが妊娠や新生児育児に伴う精神的・肉体的負担に対処するのを支援するプログラムの開始を明らかにした。

アプリを通じて、瞑想、認知行動療法、マインドフルネス、リラクゼーションに関するコンテンツを利用できる。同プログラムでは、同性婚や養子縁組、母子/父子家庭といった、各家庭の状況に合わせて個別化されたコンテンツが提供されるという。

Wall Street Journalは3月に、Livongoが新規株式公開(IPO)の準備中だと報じている。時期は早ければ2019年第3四半期で、10億ドル規模のIPOになる見通しであるという。  

(了)


*1)  https://www.cdc.gov/media/releases/2017/p0718-diabetes-report.html
CDCによると、米国の糖尿病患者数は人口の9.4%にあたる3030万人で、前糖尿病患者数は8,410万人にのぼる。
*2)  医薬品給付サービスを保険企業に代わって行う中間業者で、製薬企業との医薬品価格交渉や薬局に対する保険償還を担う
*3)  スキルとはスマホでいうアプリのようなもので、第三者によって開発され、導入することによってAlexaの機能を拡張するもの
*4)  医療情報のプライバシーを保護する包括的な連邦法として1996 年に制定されたHIPAA (Health Information Portability and Accountability Act)とその後2009年に制定されたHITECH(Health Information Technology for Economic and Clinical Health Act)は、医療情報の機密性を踏まえ、医療情報の保護責任を持つ事業体がプライバシーとセキュリティを確保するための様々な対策を講じることを義務付けている
*5)  メディケア・アドバンテージ(MA)は、メディケア受給者の34%が加入する、民間保険によって実施されるメディケア給付
*6)  65才以上が加入する高齢者向け公的保険のメディケア(Medicare)および貧困層向け公的保険のメディケイド(Medicaid)を監督する連邦機関で、米国最大の保険ペイヤー


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