2019/07/09

米国eHealthジャーナル試読版

FDA、eMurmur IDの510(k)申請を承認

行政・規制ニュース, 医療機器

AIによる心雑音の自動検出

FDAは4月17日、カナダのオタワ拠点のeMurmurが開発したeMurmur IDを、510(k)申請経路により承認した。心音スクリーニング・プラットフォームのMurmur IDは、スマホ、第三者開発の聴診器、機械学習を活用して心雑音(cardiac murmur)を自動検出する医療機器。心雑音は、通常のトントンという心臓の脈打つ音と音の間に聞こえる連続した異常音で、正常な心臓では発生しない。心雑音は循環器疾患の診断の目安となる症候の1つである。同スクリーニング・プラットフォームには、スマホアプリ、ウェブポータル、HIPPA*1 準拠サーバー、AI分析機能が含まれ、録音された心音データは安全に保存され、医師との共有が可能だ。

承認の根拠となったのは、1,000名超の被験者を対象に実施された5件の多施設二重盲検試験。同試験でeMurmurは、正常な心音と異常な心音との聞き分け、また、左右の心室から血液が大動脈と肺動脈に拍出され、心室と心房の間の弁が閉まるときの音であるS1と、血液が拍出された後に大動脈と肺動脈の弁が閉まる音であるS2の聞き分けを正確に行うことができた。University of Calgaryの教授でeMurmurのメディカル・アドバイザーであるDerek Exner博士は、「簡便で精度の高いeMurmurは、医師にとり、スクリーニング・ツール、また診断ツールとして活用できる」と話す。

FDAは、有用なデジタルヘルス製品への速やかなアクセスを推進する新たな規制枠組みの策定に積極的に取り組んでおり、2018年12月には画期的医療機器指定プログラムに関するガイダンスの最終版を発表、デジタルヘルス市場を大きく後押ししている。画期的医療機器指定プログラムは、「生命の危険がある、または患者を不可逆的に衰弱させる疾患や症状」を治療または診断する新規医療機器への迅速なアクセスを目指すもので、優れた医療機器の開発促進を目指して2015年に導入された迅速アクセス経路(Expedited Access Pathway)指定や、2011年に開始され、現在は中止されている革新的経路(Innovation Pathway)指定を代替する。

画期的医療機器指定は、FDAの市販前承認(PMA)申請、デノボ(de novo)申請、510(k)申請のいずれにも利用が可能で、優先審査が保証される。指定を受けた医療機器は、他の審査待ち医療機器よりも優先的に審査を受けることができ、審査官の数も増員されるが、必ずしも審査期間が短縮されるわけではない。

2018年12月発表のFDAプレスリリースによると、2016年の導入以来、110件の医療機器承認申請が指定を受け、そのうちAIアルゴリズムを利用する糖尿病性網膜症の自動検出機器、IDx-DRを含む8件がこれまでに承認された。こういった規制環境の中で、FDA承認を獲得したAI基盤の医療機器の上市が増えている。MaxQ AIのAccipioは、医師が急性頭蓋内出血リスクの高い患者を同定するのを支援するツールで、2018年に510(k)経路により承認を受けた。Accipioは単独で利用可能な診断ツールではなく、アルゴリズム基盤のソフトウェアは、非造影CT画像(non-contrast)を自動処理してトリアージを行うのを可能にする。トリアージとは、患者の重症度に基づいて、治療の優先度を決定して選別を行うこと。

デノボ経路で2018年5月にFDA承認を受けたImagenのOsteoDetectは、AIアルゴリズムを利用してX線画像をスキャンし、手首の骨折を検出する。そのほか、Bay LabsのEchoMD AutoEF softwareは、心エコー検査から得られたデジタル画像を自動精査し、最も質の高い画像から駆出率を計算する。心臓専門医が行う定期的な診断ワークフローに組み込まれることで、臨床意思決定をサポートする。より一般消費者に身近なAIアルゴリズムの例としてApple Watchがある。Apple Watchの最新バージョンにはECG(心電図)機能と不整脈などの異常を検出するアルゴリズムが備わっている。

(了)


*1) 米国では、医療情報のプライバシーを保護する包括的な連邦法として1996 年にHIPAA (Health Information Portability and Accountability Act)が制定された。HIPAAはその後、社会情勢と共に継続的に改定され、2002年にプライバシー規則、2003年にセキュリティ規則が追加された。その後2009年に制定されたHITECH(Health Information Technology for Economic and Clinical Health Act) では、HIPAA違反に対する罰則が厳しく定められた。これらの法律は、医療情報の機密性を踏まえ、医療情報の保護責任を持つ事業体がプライバシーとセキュリティを確保するための対策を講じることを義務付けている。


本誌掲載の情報は、公開情報を基に各著者が編纂したものです。弊社は、当該情報に基づいて起こされた行動によって生じた損害・不利益等に対してはいかなる責任も負いません。また掲載記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
Copyright © 2019 LSMIP事務局 / CM Plus Singapore Pte. Ltd.

連載記事

執筆者について

関連記事

関連記事はありません