2019/10/08

米国eHealthジャーナル 第5号

Walmartが店舗隣接型クリニックを新設オープン

ジャーナル第05号, 医療コミュニケーション支援, Walmart

 
 

 

オンライン予約プラットフォームも新設

CNBCは8月29日、小売り大手のWalmartがジョージア州ダラスにおいてプライマリケアサービスを提供する店舗隣接型クリニック、
Walmart Healthを9月に新設オープンすると報じた。

Walmartは店舗内で処方箋医薬品の調剤を行っており、既に米国最大の薬局チェーンの1つとなっている。また、既にテキサス州、サウスカロライナ州、ジョージア州では店舗内クリニックのWalmart Care Clinicを複数展開している。今回のクリニック新設と関連するオンライン・プラットフォームにより同社は、ヘルスケア関連ビジネスへの進攻をさらに深めることとなる。

ダラスの新設クリニックは店舗内クリニックではなく、店舗に隣接するビルディングの一角で医療サービスを提供するもので、プライマリケアのほかに、歯科、眼科、補聴器外来、検査ラボ、レントゲン、メンタルヘルスケア、と店舗内クリニックと比較して包括的な医療サービスを提供する。店舗とは異なるビルにあることは、患者に「プライバシー」を提供することにもなる。

またWalmartは、Walmart Healthのオンライン予約を行うためのウェブサイト「Walmarthealth.com」を立ち上げた。最初の予約可能日は9月13日となっている。ウェブサイトは、それぞれの検査や診察の保険適用前価格を表示しており、患者は予約前に医療費支払額を「把握」することが可能だ。保険が適用される場合には患者負担が軽減されるため、ウェブサイト表示価格は患者が支払う最大額となるものだが、ほとんどが59ドル~99ドルと極めて安価な設定になっている。例えば、成人の年次健康診断は30ドル、歯科検診は50ドル、新患の精神科カウンセリングが60分で60ドルだ。

 

 

(出典)Walmart Health
 

店舗内クリニックは新しいアイデアではなく、この取り組みでは薬局チェーン大手・薬剤給付管理会社(PBM)のCVS Healthが先行している。CVS Healthは現在、全米の約1,100店舗に、店舗内クリニックのMinuteClinicを擁している。MinuteClinicは、プライマリケア医や「アージェントケア施設」が提供する医療サービスの大半を安価な価格で提供している。
アージェントケア施設とは、プライマリケアを予約なしで受けることができる店舗型クリニックで、病院外来や医師オフィスと比較して医療費が安価に設定されている。アージェントケア施設は、薬局店舗内クリニックの競合にあたる。

 

米国ではここ数年、アージェントケア施設が急速に増加した。患者が日ごろから適切な医療を受けず、病状が悪化してから緊急医療室(ER)に駆け込み高額医療費の請求を受けるという米国の悪循環を断ち切る狙いが背景にある。この分野に商機を見出したプライベート・エクイティ(PE)ファンドが、アージェントケア施設運営企業への投資を急速に拡大したことも、設置数急増の一因である。医師グループや病院も同じように商機を見て、アージェントケア施設運営企業を買収している。

一方でアージェントケア施設市場は飽和状態となっており、多くの施設が黒字を維持できるだけの顧客を確保できていないことも指摘される。大手アージェントケア・グループが小規模グループを買収することによる統合も進んでいる。6月21日には、ニューヨーク大都市圏で最大手CityMDが、Summit Medical Groupとの合併を発表した。Summit Medical Groupは、プライマリケアからスペシャルティケアまでコーディネートされたケアの提供を行う独立系クリニックで、両者の合併によりニューヨーク州やニュージャージー州の大都市圏で統合化サービスを提供するアージェントケア施設が誕生することになる。CityMDにはPEファンドのWarburg Pincusが投資している。

2018年12月には、アージェントケア施設大手のFastMedが同じく大手のNextCareを買収することで両社が合意したと発表した。FastMedはノースカロライナ州、アリゾナ州、テキサス州に110の施設、NextCareはアリゾナ州、コロラド州、ミズーリ州、ノースカロライナ州、テキサス州、バージニア州など10州に141施設を展開する。しかし、この計画は競合企業やペイヤーの反対を受け、4月に白紙撤回された。NextCareはPEファンドであるEnhanced Healthcareのポートフォリオ企業で、一方のFastMedもABRY Partnersのポートフォリオ企業である。PEファンドにとってアージェントケア施設への投資の回収はすでに困難となっており、出口戦略の再考を指摘する意見もある。

今後アージェントケア施設が生き残るためには、サービスの内容や提供地域などの面で何らかの強みが必要との認識があり、一部のアージェントケア・グループは患者の利便性向上や、プライマリケア管理、慢性疾患管理を含めた統合的ケアの提供などに取り組んでいる。

アージェントケア施設と比較して、店舗内クリニックや店舗隣接型クリニックには、患者が普段から利用する実店舗に存在するというアクセス面での優位性がある。Walmartには、毎週約1億4,000万人もの顧客が全米の同社店舗に訪れるという強味があり、また同社は全米に150万人の従業員を擁している。店舗内クリニックや店舗隣接クリニックは、これらの人々に便利で安価な医療サービスへのアクセスを提供できるだろう。特に、医師が不足する非都市部エリアの店舗は、未充足のニーズを満たす存在となる可能性がある。

 

(了)


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