2019/09/10

米国eHealthジャーナル 第3号

CVS Health、在宅透析システムの臨床試験実施へ

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テレヘルスを利用したパイロット・プログラム

ヘルスケア・コングロマリットの
CVS Healthは7月17日、在宅透析システムの安全性と有効性を評価する臨床試験を実施すると発表した。同試験はテレヘルスのパイロット・プログラムであり、最大70名の被験者を対象として約10カ所で実施される。テレヘルス基盤の在宅透析は、米国にいる70万名の末期腎不全(ESRD)患者が、毎週3回外来透析センターに通う負担を大きく削減する。在宅透析システムは、2019年6月に同社が開催した投資家向け説明会で発表した新たなビジョン、「消費者中心型ヘルス企業」を構成する要素の1つとなるものだ。

米国におけるESRD患者への透析サービス市場は、Fresenius Medical CareとDaVitaの2社による寡占状態が続いている。これら2社も既に在宅透析サービスを患者に提供しており、CVS Healthの今回の動きは、この在宅市場を狙ったものである。

米国では保険会社と薬剤給付管理会社(PBM)の垂直統合が進み、2018年12月に完了した保険会社大手Cignaによる大手PBM、Express Scriptsの買収をもって、米市場から独立系PBMが消滅した。薬局チェーン大手CVSとPBM大手CaremarkRxの合併により2007年に誕生したCVS Health(2014年に以前の社名であるCVS/Caremarkから現在のものに変更)は、2018年11月には保険会社大手Aetnaの買収手続きを完了、現在は、医療保険、PBM、小売薬局の3分野にまたがる事業を展開する。

競合他社と異なる同社の強味は、CVS Healthが患者との接点である小売薬局ビジネスを擁していることだ。7月10日には、同社の小売薬局店舗内クリニックMinuteClinicによるテレヘルスサービス「MinuteClinic Video Visits」の利用可能州として、新たにアーカンソー州、コネチカット州、ハワイ州、インディアナ州、ミネソタ州、ミズーリ州、オクラホマ州、テキサス州の8州が加わったと発表した。これにより、現在全米26州とワシントンDCにおいてMinuteClinicによるテレヘルスサービスが提供されている。


CVS HealthによるとMinuteClinicは現在、全米に約1,100店舗を擁している。
MinuteClinicは、プライマリケア医と「アージェントケア施設」が提供する医療サービスの大半を安価な価格で提供している。アージェントケア施設とは、基本的ケアを予約なしで受けることができる店舗型クリニック。

CVS Healthによると、MinuteClinicのVideo Visitsはテレヘルス大手企業Teladoc Healthのプラットフォームを活用している。プラットフォームは1日24時間体制で、患者は、自身のコンピュータやスマートフォンを使って、いつでも好きな時にオンデマンドでケアを受けることが可能だ。Video Visits のパイロット段階においてCVS Healthが実施した研究によると、利用者の95%はVideo Visitsで提供された医療サービスに満足したと回答した。また同じく利用者の95%が、Video Visitsの利便性に満足したと回答した。

CVS Healthの競合企業らも、医療費を削減するとともに患者に簡便性を提供する新しいデジタルツールの提供でしのぎを削っている。民間保険大手のAnthemは7月22日、テーラーメイドのヘルスケア・データをメンバーに提供するアプリ開発を目的として、ニューヨーク拠点のデジタルヘルス・スタートアップ、K Healthと提携したと発表した。K Healthが開発したAI基盤のチャット機能は、ユーザーが症状を入力すると、年齢、性別、既往歴なども考慮して、現在ユーザーが罹患している可能性のある疾病を教えてくれる。

この機能は無料で利用できる。ユーザーはまた、アプリを使って、専門的なアドバイスを得るために医師とチャットすることも可能で、その場合の料金は外来診療においてユーザーが支払う患者自己負担金よりも安価だ。

民間保険大手のHumanaもまた今年4月に、テレヘルス企業大手のDoctor On Demandと提携を発表している。
Humanaのバーチャルケアモデルでは、メンバーは、ネットワーク内プライマリケア医によるテレヘルスサービスを患者自己負担金なしで利用できる。バーチャルケアモデルは、通常の保険プランへの任意の追加サービスであり、購入した場合、メンバーが支払う月額保険料は高くなる。しかしながら、医師によるバーチャルケアを自己負担なしで受けられるというメリットは大きいだろう。

米国の医療費、そして医薬品価格は先進国の中でもとりわけ高額であることが知られている。先進国で唯一、皆保険制度を持たない米国では、民間保険企業が大きな役割を果たしており、このことが医療費高騰を招いていることも事実だ。2020年米大統領選挙への出馬を表明した無所属のBernie Sanders議員は「Medicare for All」を掲げており、一部では熱狂的にこのアイデアが支持されている。

2019年2月には、連邦議会下院において、民主党議員らが法案「Medicare for All Act of 2019」(H.R.1384)を提出、その後に民間保険企業の株価は軒並み下落した。しかしながら、民間保険企業がイノベーションを促進する牽引力として機能している点を見逃してはならない。よりよい保険内容で顧客を奪い合う競争が存在するからこそ、次々に新しいデジタルヘルスが採用され、米国民はまっさきにそれを利用できるようになるのだ。

 

(了)


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