2023/05/09

米国eHealthジャーナル第87号

デジタル・セラピューティクス企業のPear Therapeuticsがチャプター11申請

デジタルセラピューティクス, VC投資・M&A・決算, Pear Therapeutics, 提携, ジャーナル第87号

15名からなる移行チームが事業を継続

処方箋デジタル・セラピューティクス(DTx)の開発に特化するPear Therapeutics(以下、Pear)は4月7 日、連邦破産法第11条(チャプターイレブン)の適用を申請したと発表した。Pearは3月17日に株主価値を最大化するための戦略的代替案を検討するプロセスを開始したと発表しており、ヘルスケア業界に戦略的・財務的アドバイスを提供する大手ブティック投資銀行の MTS Health Partners を財務アドバイザーとして起用したことを明らかにしていた。

日本の民事再生法に類似するチャプターイレブンは、再建型の企業倒産処理を規定するもので、旧経営陣は、引き続き企業を経営しながら負債の削減などの再建に取り組む。Pearは今後、事業または資産の売却先を模索することとなるが、利用可能な現金を活用して、規模を縮小した事業を継続する予定だ。

Pearは、DTxのパイオニア企業として知られ、物質使用障害(SUD)患者の治療を適応として2017年9月にFDA承認を獲得した「reSET」、オピオイド使用障害(OUD)患者による外来治療プログラム継続率の向上を目的に2018年12月にFDA承認を受けた「reSET-O」、慢性不眠症患者の治療を適応に2020年3月にFDA承認を受けた「Somryst」の3種類の処方箋DTxを販売している。2021年6月にはSPACであるThimble Point Acquisition Corpと合併することで合意し、同年12月の取引完了を経てナスダック(NASDAQ)上場を果たした。

Pearによると、全米では4,000万人以上がなんらかの依存症と闘っている。しかしながら、reSETやreSET-Oを必要とする患者のうち、治療を受けているのはその10~20%に過ぎない。Pearではこういった患者にリーチするべくマーケットアクセス戦略を展開し、主に各州のメディケイドプログラムを通じて同社の処方箋DTxの患者アクセスを大幅に拡大させてきた。直近では、2023年1月に、reSETとreSET-Oがフロリダ州メディケイドプログラムの優先医薬品リストに追加されたことを明らかにしている。しかし、市況の冷え込みを受けてデジタルヘルス業界で多くのレイオフが行われる中、Pearも2022年7月に証券取引委員会(SEC)に提出した資料において、フルタイム従業員の約9%にあたる約25名をレイオフすることを明らかにした。Pearは、このレイオフによって向こう18カ月に渡り約2,800万ドルの営業経費を削減できるとしていた。その後にもさらなるレイオフを承認し、2022年9月末時点で従業員の約22%に当たる59人が影響を受けた。

一部報道によると、Pearは、より広範囲な保険カバレッジを獲得できず、DTx事業を収益化することができなかった。同社の決算報告書によると、2022年の製品売上は1,040万ドルで前年比178%増となった。しかし2022年については、前年四半期比で増収を達成したのは第3四半期までの3四半期で、第4四半期には売上が減少し、さらにこの傾向は2023年の第1四半期まで続いた。Pearは、2022年通年と2023年の第1四半期を通じて資金調達を試みたが、失敗に終わったと述べている。

同社のCEOであるCorey McCann氏はLinkedInでチャプターイレブンに言及し、「Pear にとって極めて困難な日である。2013年にPearを設立した際に思い描いていた結果ではないことは確かだ」と述べた。。証券取引委員会(SEC)に提出した書類によると、Pearは、ほぼ全従業員にあたる約170名を解雇し、業務の継続を目的とした移行チームのメンバーとして、約15人の従業員を維持するという。McCann氏は、同社のCEO兼社長を退任したが、、引き続き取締役会のメンバーを務め、予定された事業売却プロセスに沿ったコンサルティングサービスを提供する。Pearの資産売却オークションは5月初旬に行われる見通しだ。

(了)


本記事掲載の情報は、公開情報を基に各著者が編纂したものです。弊社は、当該情報に基づいて起こされた行動によって生じた損害・不利益等に対してはいかなる責任も負いません。また掲載記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
Copyright © 2023 株式会社シーエムプラス LSMIP編集部

連載記事

執筆者について

関連記事