2022/11/08

米国eHealthジャーナル第76号

仮想現実(VR)技術の利用で術中の麻酔薬使用量を大幅に削減

外科(手術), XRHealth, 研究・調査, ゲーミフィケーション, XR (VR/AR/MR)技術, AppliedVR, ジャーナル第76号

Beth Israelの研究結果

手の手術中に仮想現実(VR)技術を使用すると、患者報告アウトカムに悪影響を及ぼすことなく術中の麻酔薬使用量を大幅に削減できることを示唆する研究「Virtual reality immersion compared to monitored anesthesia care for hand surgery: A randomized controlled trial」がPLOS Oneに9月21日付で掲載された

ボストンのBeth Israel Deaconess Medical Centerの研究者らは今回、手の外科手術を受ける成人40名を、監視下麻酔管理(monitored anesthesia care、以下MAC)に加えて術中VRを行う群と、通常のMACのみを行う群に無作為に割り付けた。MACとは、比較的侵襲性の低い外科手術に際して、麻酔科医が患者のバイタルサインの変動を監視し、自発呼吸を維持しながら麻酔薬を投与して適切な鎮静、鎮痛を実現するもの。MACは、新しい鎮痛・鎮静薬や神経ブロック法、さらに麻酔科医の持つ全身管理の技量を駆使し、高い患者満足度と早期回復を目的に行われる。両群の患者には、医療機関の判断で術前に局所麻酔を行った。主要評価項目は、術中の 1 時間あたりの麻酔・鎮静薬プロポフォールの投与量、二次評価項目は、患者が報告した痛みと不安、全体的満足度、機能的転帰、麻酔後治療室(PACU)の滞在期間とした。

術中、VR 群はヘッドマウントディスプレイとノイズキャンセリングヘッドフォンを使って好きな番組を視聴した。 VRクリニック企業であるXRHealthが開発した同VRプログラムは、平穏な草原や森、山頂など、リラックスと落ち着きを促すようにデザインされている。患者は、没入型環境の中でガイド付きの瞑想を視聴したり、「星空」の背景に囲まれたシアタースクリーンとして表示されるユーザーインターフェイス上でビデオライブラリから任意の映像を選択し視聴することができる。


出典:XRHealth

結果、VR群では対照群に比べて1時間あたりのプロポフォールの投与量が統計的に有意に少なかった。注目すべきは、PACUの滞在時間がVR群で著しく短縮されたことで、VR群は対照群よりも22分早く退院した。

VR技術を利用して疼痛を管理するデジタル・セラピューティクス(DTx)としては、VR技術基盤DTxの開発に特化するカリフォルニア州ロサンゼルス拠点のデジタルヘルス企業、AppliedVRの「EaseVRx (2022年3月、「RelieVRx」にリブランド)」がある。AppliedVRは、2021年11月に、18歳以上の難治性の慢性腰痛患者の治療を適応として、デノボ(de novo)経路で「EaseVRx」のFDA承認を獲得した。EaseVRxの利用には医師の処方箋が必要となる。「EaseVRx」は、2020年10月にFDAから画期的医療機器指定を受けていた。

EaseVRxは、医療機器に搭載されたソフトウェア(Software in a Medical Device、SiMD)で、そのハードウェア・コンポーネントは、VRヘッドセットメーカーであるPico製の専用VRヘッドセットとコントローラー、およびヘッドセットに搭載された深呼吸エクササイズ用「呼吸アンプ(Breathing Amplifier)」で構成される。ソフトウェア・コンポーネントは、マインドフルネスや認知行動療法(CBT)、バイオフィードバック、アクセプタンス・アンド・コミットメント・セラピー(ACT)といったエビデンス基盤の治療ツールで構成され、各回2~16分の長さのVRセッションを毎日視聴する、8週間全56回の治療プログラムを提供する。バイオフィードバックとは、心拍のような通常では自覚・制御が難しい現象を、センサーなどの工学的な手段により検出して自身が意識できるようフィードバックし、それを手がかりとして学習・訓練を繰り返すことで体内状態の意識的な自己制御を達成する技法をいう。ACTはCBTの1つで、自身の思考と感情をあるがままの状態で受け入れることを意味するアクセプタンス(受容)と、よりよい行動を自分で考え出し、その実行を自身と約束するコミットメントを通じて心理的柔軟性を生み出す出すことで、「心の健康」を維持・回復させる療法。

(了)


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