2022/11/01

「知的財産」解説シリーズ 連載第1回

知財情報から眺める「DTx関連技術の全体像」

知的財産権, デジタルセラピューティクス

《編集部から》
❝デジタルヘルス❞において、最も大きな期待を集めている領域が、デジタルセラピューティクス(Digital Therapeutics、DTx)である。 国内でも薬事承認を得て上市される製品が生まれるなど、社会実装が一段と進みつつあるが、臨床的エビデンスが証明されていることは勿論、 どのように知財戦略を描くかが、資金調達や戦略提携など社外パートナーと協同することが多いスタートアップでは後々に重要性を増してくる。
計4回となる本連載では、国内外で名を馳せるスタートアップの事例を引用しながら、その勘所を探ることとする。
(第1・2回は無料記事として一般公開、 第3・4回は「米国eHealthジャーナル」購読者向けの限定公開とさせていただきます)

 -CureApp社とサスメド社の特許を事例に-

 本連載では、デジタルセラピューティクス(以下、DTx)の動向について、知財情報に基づいて紹介する。DTxの定義や市場予測、どの疾患が注目されているかなどについては様々な記事が発表されているのでご参照いただき、本連載では主にDTx領域における技術的な動向について解説する。

 第1回となる今回は、国内企業でDTxの開発を積極的に進めているCureApp社およびサスメド社が出願している特許を参考に、特許情報から見える「DTxに関する技術の全体像」について概観していく。

 DTxに関する技術の全体像を概観するため、本記事では、DTxの主なステークホルダーである患者・医師・DTx提供企業に着目し、各ステークホルダーが関わる技術の具体例を見ていくこととする。

 

1. 患者を対象とした技術

 DTxにまず必要となるのは、患者を治療するメカニズムに関する技術である。具体的には、患者の状態を把握する機能や、患者の状態に応じて適切な介入を行う機能等である。

 下記フローチャートは、禁煙治療に関する特許に記載された図面の一部である。スマートフォン(以下、スマホ)を通じて患者の喫煙に対する認識をサーバが把握し、その結果に応じてサーバから適切な情報をスマホに送信するシステムとなっている。

特願2016-562599の図16を引用。
患者に「ストレスは喫煙によって解消すると思いますか?」と問いかけ、その回答に応じて、患者にフィードバックを行う流れを示した図。例えば、「すべてのストレスが解消する」と回答した患者に対しては「喫煙によって解消するストレスはニコチン不足によるストレスだけです。疲労によって生じたストレスは喫煙によっては解消しません。」とフィードバックを行う。

 疾患によって治療のメカニズムは異なるため、各疾患に対応した治療メカニズムをDTxに実装し、その内容を特許で保護する。さらに、患者の状態把握や患者への介入といった、個別の機能や画面デザイン等についても特許出願を行い、複数の特許で製品を保護するのがDTxの知財戦略の基本となる。

 

2. 医師を対象とした技術

 DTxは患者と製品のみで完結するものではなく、適切な形で医師の介入を必要とする。そのため、医師はDTxを通じて患者の情報を取得する必要がある。しかし、患者情報には多くの個人情報が含まれており、その取扱いには厳重な注意を要する。

 下記の図は、患者の端末から取得した患者情報を医師に開示する前に、患者からの許可を求める特許の一部である。この技術により、患者情報が不当に流出するリスクを軽減することができる。

特願2020-102655の図5を引用。
DTxから患者情報を取得するために必要なQRコードやパスワードを生成し、医師はQRコードの読み込みやパスワードの入力後に、患者情報を取得することができる。

 

3. DTx提供企業を対象とした技術

 DTxに有用な技術は、薬事承認を取得するための臨床試験の段階においても存在する。臨床試験を行う際には、被験者がその試験の対象に適切であるかのスクリーニングが必要となる。

 下記フローチャートは、治験に参加する被験者の操作情報から「被験者としての適格性」を評価する特許の一部である。

特願2019-542746の図6を引用。
被験者の候補となるユーザの端末操作情報に基づいて、被験者としての適格性を評価する。適格性評価の詳細については後述。

 

4. 特許情報から見るDTx特有の課題とは

 特許情報の有用な点は、「各社が特許を取得しようと思う程度に重要な技術」について「着目した課題」が明らかにされていることである。DTxの領域も例外ではなく、特許情報を分析することで、各社の着目している課題を理解することができる。

 被験者の適格性を評価する技術として紹介した特願2019-542746は、治療用アプリの臨床試験時に発生するスマホ操作に着目した課題を明らかにしている。

 例えば、金銭等を目的として臨床試験に応募した人は治療用アプリを誠実に使用しない可能性がある、あるいは、端末の操作に関する習熟度が低い人は被験者として不適当な場合がある、といった例が示されている。

 さらに、上記課題に対する解決手段にも言及している。例えば、候補者にアンケートを実施して、回答時間が早すぎる(真面目に回答していない)、又は遅すぎる(アプリの操作に不慣れ)場合には、被験者に不適格と評価する旨の記載がある。このように、着目した課題だけでなく、その解決手段についても開示されることも特許情報の有用な点である。

 

5.DTxの技術動向は「誰の、どんな課題を解決したか」に着目してチェック

 このように、DTxに関わるステークホルダーを整理し、各ステークホルダーが抱えている課題をタイムラインに沿って整理する。それが各社の開発動向の把握、ひいては自社が取るべき戦略を明確にする第一歩となる。

 連載1回目となる今回は、各ステークホルダーに着目することで、DTxに関する技術の全体像を俯瞰しつつ、特許を読むことで何が分かるかについて解説した。次回以降は個別企業の開発動向について、特許を通じて分析していく。

注:本連載では、記事中で紹介する特許について、権利登録の有無・出願時点からの権利範囲の修正など法的な要素には言及せず、あくまで技術情報として特許の内容を紹介している。
 

(了)


本記事に掲載されている情報は、一般に公開されている情報をもとに各執筆者が作成したものです。これらの情報に基づいてなされた判断により生じたいかなる損害・不利益についても、当社は一切の責任を負いません。記事、写真、図表などの無断転載を禁じます。
Copyright © 2022 LSMIP事務局 / CM Plus Corporation

 

連載記事

執筆者について

関連記事

関連記事はありません